生乳の熱利用で温暖化対策(実施地域:中標津町 取材年月:2014年10月)

ミルクヒートポンプ(LLC北海道新エネルギー事業組合)

酪農の町の温暖化対策
北海道東部の中標津町は、酪農が盛んな町です。町内の人口が約2万4千人であるのに対し、乳牛は3万9千頭以上で、人よりも牛が多い地域です。
酪農においても、機械化・大規模化が進み、搾乳の機械や生乳を冷やすクーラー、そして機械を洗浄するためにお湯を大量に沸かすなど、使用するエネルギー量は増え、二酸化炭素の排出量も増加しています。
そこで、今回は、中標津町にある北海道新エネルギー事業組合が取組む、しぼりたての生乳の熱を利用し、酪農家経営でエネルギー使用量を減らすシステム「ミルクヒートポンプ」をご紹介します。

コスト削減と衛生面を両立させたシステム
搾乳した直後の生乳は、牛の体温と同じで約38℃ですが、細菌を増やさないようにするために4℃程度まで温度を下げる必要があります。通常は、バルククーラーと呼ばれるステンレス製のタンクで直接冷却するか、あるいは冷却クーラで一次冷却を行い、その後バルククーラーで貯蔵します。いずれの場合も、生乳を急速冷却するので、電力消費が大きく、また水道水も大量に使用するため、エネルギーもコストもかかります。
「ミルクヒートポンプ」は、熱交換によって生乳から得た熱を、ヒートポンプシステム(温度の低いところから高いところへ熱を移動させるシステム)で利用し、そこでできた温水を、機械洗浄のお湯を作る時の熱源として活用できるようにしたシステムです。搾乳の直後に生乳の熱を取ることで、温度を10℃位まで一気に下げられるため、衛生的なだけでなく、生乳を冷やすための電力や、機械洗浄のためのお湯を作る時の燃料も削減できる、まさに一石二鳥のシステムと言えます。

母牛の体温を無駄にしない
2013年6月から、「ミルクヒートポンプ」を導入している、JA道東あさひ理事の林義和さんは、導入のメリットは多いと言います。
図1.jpg「実際に使っている印象としては、予備冷却として生乳の温度を一気に下げられるので衛生的で、洗浄のお湯を作る灯油代も削減できています。今のところメンテナンスの必要もありません」。
さらに、林さんは、牛乳の生産や出荷の環境負荷を客観的に評価する、カーボンフットプリントのような仕組みも必要だと話しています。
「このシステムが普及するには、初期投資を回収できるかという事と、付加価値の高い牛乳だということを消費者にアピールできるかがカギになると思います。日本ではやっと100%有機牛乳ができ、かなりの付加価値があります。『ミルクヒートポンプ』を使った牛乳は、今は一元集荷されていますが、環境に配慮した牛乳として今後市場で差別化されるようになればと思っています」。
図2.jpg図3.jpg北海道新エネルギー事業組合の組合員であり、「ミルクヒートポンプ」の考案者でもある有限会社柳田電気の社長、柳田清志さんは「ミルクヒートポンプ」を導入する場合の留意点について、次のように話しています。
「搾乳機械からバルククーラーにつなぐ所にヒートポンプの装置をつけるので、設置によって菌が増えたり、詰まったりしないように、バルクのメーカーに了解を得ることが重要です。搾乳機械のメーカーにも、バルクのメーカーにも、そして酪農家自身にも、システムについて理解してもらう必要があります」。
「ミルクヒートポンプ」の展望についてもお話を伺いました。
「今の酪農は重装備産業で、初期投資も膨大なうえ、利益が少ないため頭数を増やさなければならないのが現状です。『ミルクヒートポンプ』は、経費である燃料代を削減できるので、削減できた分は、そのまま酪農家の利益となり、酪農家の経営を支えることにもつながります。生乳の熱は、母牛の体温。私たち人間は、本来子牛がそのまま飲むはずのミルクを、わけてもらっています。その貴重な母牛の熱を、邪魔なものとせずに、何かに役立てられるのは、酪農家だけです。酪農は必ずお湯を使います。『ミルクヒートポンプ』のような、捨てられてしまう熱を活用したシステムが当たり前になってほしいと思っています。現在は、酪農家の方からのより効率よく生乳を冷やせるようにしてほしいという要望に応えるべく、試行錯誤しています」。

図4.jpg【写真1】 林さんの牛舎で搾乳を待つ牛たち。林さんは夫婦二人で牧場を経営している。
【写真2】 搾乳後、タンク(写真中央部)に送られた牛乳は、プレートクーラー(写真左上の黒い装置)の中で熱交換される。
【写真3】 林さんが使用しているバルククーラー。ここに入る時には生乳は既に10℃位まで温度が下がっている。
【写真4】 バルクを設置している場所も、生乳の温度管理に影響する。林さんはコンクリートの建物内に置いているので、真冬でも氷点下にはならない。

[ミルクヒートポンプ に関するお問合せ] ・HPはこちら    ・本記事のPDFはこちら

LLC北海道新エネルギー事業組合
 住所:標津郡中標津町字開陽1360-4 
 電話: 0153-73-2050
 FAX: 0153-73-3050

林さん、柳田さん、寺端さん.jpg省エネルギー・低炭素システムの販売、自然環境の中に埋もれている未利用エネルギーを有効に活用するための研究・開発など、農業者をはじめとする町の基幹産業の活性化を図り、地域社会の抱える様々な環境問題解決の一助となるための取り組みを行う。写真左から林理事夫妻、柳田社長、寺端代表社員組合長。