特別企画・後編 (取材年:2015年)

国立環境研究所 地球環境研究センターと北海道【後編】

前編では、地球環境研究センターの交流推進担当 広兼克憲さんに、研究所やセンターが行っている温暖化の研究と、北海道の関わりについて伺いました。
続く後編では、北海道で行われているモニタリングについて、具体的な内容をお聞きします。

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具体的には、どこでどのようなモニタリング調査をしているのですか?

広兼:「天塩と苫小牧で森林生態系炭素収支モニリング調査、根室の落石岬で二酸化炭素など温室効果ガス濃度の観測、あとは利尻島で利尻山の様子を4方向から定点カメラ連続写真で記録する調査を行っています。
 天塩と苫小牧で行っている森林生態系炭素収支モニリング調査というのは、森林内での炭素循環、つまり二酸化炭素が地球の中でどのような運命を辿るのか、どこから出てどこへ入るのかを知りたいわけですが、それが森林内ではどうなっているのかを調べる研究です。北海道には広大な森林がありますよね。森林では、植物が生長するときに光合成により二酸化炭素を吸収しますが、その定量的なデータはまだ不十分で、さらなる研究が必要であり、この成果が今後の温暖化対策を議論する時に非常に重要になってきます。

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 苫小牧にある観測タワー
出典:国立環境研究所地球環境研究センター

 ちなみに、先の京都議定書で日本が約束を達成出来たのは、森林が二酸化炭素を吸収する効果を相当見込んでのことです。ですが、この森林の二酸化炭素吸収量が今後どうなるか、そもそも現状どうなっているのか、実は科学的には把握されているとは言えません。それを把握するための施設として、天塩と苫小牧にフラックスを観測するタワーを設置し、調査しています」。

「フラックス」というのは、どのような意味ですか?

 「簡単に言うと『流れ』ということです。森林が成長して二酸化炭素を吸収すると、二酸化炭素は下向きに吸い込まれるように流れていると考えることができます。この流れを、『下向きに正のフラックスがある』という言い方をします。上より下のほうが二酸化炭素の濃度が低ければ、『森林が二酸化炭素を吸った』ことになるわけで、逆の場合は『森林から二酸化炭素が排出された』と判断します。研究者はこのような流れを観測することをフラックス観測と呼んでいます。

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森林生態系炭素収支モニリングサイト(天塩)
写真 大東正巳 国立環境研究所提供

 一年を通じて観測してみると、冬の間森林は二酸化炭素を排出して、夏の間は吸収している。トータルで見ると、年間ではやや『吸っている』という結果になります。
2004年の台風で、苫小牧の森林は全部倒れ、その時にフラックスタワーも倒れました。そういうことは自然の中では起こりうることです。ですから、その後タワーを一部復活させて、撹乱した状態から森林が回復するときに、どのように二酸化炭素が吸収されるのかを観測しています。

 少し似ていますが、天塩でも、元々は林だったところを一部分だけ伐採し、新しく植林したらどのぐらい吸ってくれるのか、観測しています。また、森林における木からの二酸化炭素の出入りだけではなく、チャンバー(ボックス)等を使って、森林の中の土壌が二酸化炭素を出しているか、出していないか、通年で測定しています。
北海道以外では、富士北麓でも観測しています。ここでは、最近約30%の間伐をしました。その前後でどうなるかも含めてデータを採っています。
 天塩、苫小牧、そして富士北麓と、それぞれ気候などの条件も異なりますので、森林による温室効果ガスの吸排出に関する様々なパターンの貴重なデータが採れると期待しています」。

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土壌吸収用チャンバー
出典:上・国立環境研究所地球環境研究センター
   下・国立環境研究所地球環境研究センターウェブサイトhttp://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201307/272005.html

なるほど。
落石岬では、また違う調査をされているのですね。二酸化炭素の濃度を観測していると。

 「そうです。落石岬では、1995年から大気中の二酸化炭素濃度を測っています。周りには何もないところで観測する理由は、先ほども述べたとおり、都市などの活発な人間活動の影響を受けないようにするためです。二酸化炭素濃度は、1年の間に約2ppm※程度変化します。9月から4月くらいまで上がって、4月から一気に下がります」。
※ppm(parts per million)
ある物質の存在体積の割合を表し、1ppmは100万分の1の割合。

それは、フラックスのところで教えていただいた、森林が二酸化炭素を吸ったり吐いたりすることとも関係があるのでしょうか?

 「あります。しかし、特定の森林の影響を受けているわけではなく、広域にわたる森林による二酸化炭素の吸収・排出と、人間活動の両方を含めたものが観測されていると考えられます。
 年間で二酸化炭素濃度の差を生み出す主な要因は、植物による光合成です。北半球は南半球に比べて陸地が多いため、夏に当たる4月から9月は陸地の植物の生長とともに、二酸化炭素が一気に吸収されます。例えば、日本では電力消費量が最大になる8月は火力発電所の稼動に伴って二酸化炭素濃度が上がると思いきや、落石岬で二酸化炭素濃度を測ったら、下がります。つまり光合成による二酸化炭素の吸収速度はとてつもなく大きいということです。
 また、二酸化炭素の排出源である先進国のほとんどは、北半球に位置していますから化石燃料による二酸化炭素の割合が多いこともわかります。

 国立環境研究所では、落石岬と、沖縄の波照間で二酸化炭素の観測を行っていますが、北半球の中でも、北部は陸地率が高く、また北海道は寒暖の差もあるので、落石岬では波照間よりも、季節毎の振れ幅が大きくなります」。

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地球環境モニタリングステーション(落石岬)
写真 大東正巳 国立環境研究所提供

これらのモニタリングは、どのくらいの期間続けていく予定ですか?

 「地球温暖化の把握を目的としたモニタリングでは、10年や20年よりももっと長いスパンで続ける必要があります。短い期間の調査では、たまたまだったのか、温暖化による変化なのか、区別がつかないからです。
 利尻島で行っている山の様子の記録も、長期間続けていく必要がある調査です。利尻島では、利尻山の様子を四方から定点カメラで撮影して、温暖化が進んできた場合にどのような変化が現れるのかということを、変化があった時にすぐに解析出来るように、データを蓄積しています。
 高山帯の植生や生態系は、温暖化が起きたときにかなり早い段階で影響を受けるところだと考えられています。そういったところを長期で観測することで、同じ場所、同じ季節で変化が出てきた場合に、その傾向を把握することができます。

 北海道ではありませんが、一番長く観測を続けているところは富山県の立山で、観測は7年目に入っています。仮に20年データを採れたら、何か変化が起きたときに明らかに影響が出てくるはずなので、今からデータを蓄積しています」。

これらのモニタリング調査で得られたデータは、どんな研究で使われているのですか? 

 「まとまった結果としては、地球温暖化研究プログラムのプロジェクトの成果になっています。画像の解析技術の進化は日進月歩であり、将来解析方法が進化したら、今蓄積したデータを使って新しい成果を出すことも十分考えられますので、データベース化しています。ただ、一般の人にとっては、少しマニアックなデータかもしれません(笑)」。

これからこのようなスポットを増やしていく予定はありますか?

 「高山帯の調査は、スポットを増やそうと思っています。今は写真の技術が進んでいるので、写真に位置情報や正確な時間が記録されています。山の愛好家など協力者を増やして、山の様子を撮影した写真のデータを集める、という方法も考えられます。
 二酸化炭素の観測やフラックスの調査は、それほど簡単に増やすことはできません。特に、フラックスの調査は施設が非常に大掛かりです。天塩や苫小牧は北海道大学とも協力して調査していますが、ひとつの研究機関ができる数は限られています。そのため、同じような手法でフラックスを測定している他の研究所と情報を共有するような取り組みをしています。
 モニタリングをするには人手、資金、あとは信頼できる技術と技術者が必要です。それに、地球温暖化の解明に役立てるためには、途中で止めることはなかなかできません。そうは言っても、闇雲に続けることはできないので、優先順位をつけることが必要です。どこに力を入れるかを検討し、できるだけ無駄なくやることが大切だと考えています。

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温暖化影響モニタリング(高山帯)
2015年5月14日9時の利尻山の様子
出典:国立環境研究所地球環境研究センターウェブサイト
http://db.cger.nies.go.jp/gem/ja/mountain/station.html?id=1

 これまでお話した以外にも、国立環境研究所では、北海道をフィールドとして摩周湖では水質調査を、陸別では天文台の一角に温室効果ガス、オゾン層を観測する施設を置かせてもらい、研究をしています。特に、摩周湖はあれだけ大きな湖でありながら、人間活動による排水が全く入りません。つまり、雨しか入らないので、摩周湖の水を観測することによって、外から何が運ばれてきたかを知ることができます。
 このように、北海道の各所で行っている調査によって得られたデータは、地球規模で起きている現象の研究に役立っているのですよ」。

広兼さん、ありがとうございました。

【もっと深~く知りたい方はこちらもどうぞ!】
■ 地球温暖化研究プログラム HPはこちら
http://www.cger.nies.go.jp/ja/climate/

■ 地球環境モニタリング HPはこちら
http://db.cger.nies.go.jp/gem/ja/

■ ココが知りたい地球温暖化 HPはこちら
http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/qa_index-j.html


[インタビュアー] 
 公益財団法人北海道環境財団

[インタビュー協力] 
 国立研究開発法人国立環境研究所地球環境研究センター 交流推進担当 
  広兼 克憲(ひろかね かつのり)さん

1965年、東京生まれ。大学・大学院では土木工学を専攻。1991年に環境庁入庁、地球サミットの国際交渉、環境アセスメント、自動車排ガス規制、農薬審査等を担当、1999年より国立環境研究所勤務。現在は地球環境研究センターで研究の広報や解説を担当。

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