特別企画・前編 (取材年:2015年)

国立環境研究所 地球環境研究センターと北海道【前編】

日本における環境研究の中核機関である国立研究開発法人国立環境研究所。
8つの研究部門のひとつ、地球環境研究センターでは、温暖化に関するモニタリング調査の一部を、北海道で行っています。
地球環境研究センターの交流推進担当 広兼克憲さんに、研究所やセンターが行っている温暖化の研究と、北海道の関わりについてお話をお聞きしました。

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国立環境研究所と地球環境研究センターの研究の内容や、目的について教えてください。
hirokane.jpg広兼:「1971年に環境庁が発足した後、1974年に国立公害研究所が設置されました。当時は、ローカルな大気汚染や水質汚濁といった、汚染の原因が比較的わかっている公害問題を中心に研究していましたので、公害を防ぐためには工場にどんな施設を導入したら良いのか、どんな科学的な研究が必要か、そのようなことを明らかにするための国の研究所としてスタートしました。

 その後、次第に、環境問題が酸性雨やオゾン層の破壊、さらに地球温暖化のような、日本だけで取り組めば解決するような問題をはるかに超えたスケールになり、1990年に国立環境研究所となって、同時に地球環境研究センターも設置されました。

 現在の国立環境研究所は、環境問題がなぜ起こるのかというような基礎的なことから、地球規模で起こる環境問題の解決に向けた研究までそれぞれ専門家がカバーし、非常に幅広くかつ奥深い研究をする、おそらく国内で唯一の中核的な研究機関です。国立環境研究所には、全部で8つのセンターがありますが、地球環境研究センターはその中で最も規模が大きく、主に地球環境問題、具体的には地球温暖化に関わる様々な研究やオゾン層破壊に伴う有害紫外線の観測研究をしています。

 その中でも、地球環境研究センターの主力プロジェクトは地球温暖化です。温暖化問題は、あらゆる環境問題の中で世界的にも最も対策が求められていますし、実際に色々なことを調べないと温暖化のことは分かりません」。

地球環境研究センターでは、温暖化問題に関して、どのような研究を行っているのですか?
 「地球環境研究センターと、社会環境システム研究センターが協力して、3つのプロジェクトから成る『地球温暖化研究プログラム』という、地球温暖化はどのように起こるのか、それによって将来どんなことが起きるのか、それを回避するためにどんなことをしていかなければならないのかを研究するプログラムに取り組んでいます。

 まず、プロジェクト1『温室効果ガス等の濃度変化特性の解明とその将来予測に関する研究』は、温暖化の原因とされる温室効果ガスの濃度が本当に上がっているのか、上がり続けそうなのか、海と陸とで違うのか、種類によって違うのか、季節によって違うのか、今後はどうなりそうなのか、このようなことを包括的に調べて、診断するとともに、どうしたらもっと効率よく把握できるかを調べたりするものです。

 次に、プロジェクト2『地球温暖化に関わる地球規模リスクに関する研究』は、プロジェクト1によって現状が診断出来たとして、将来どんなことが起きそうで、どんな影響(リスク)が出てきそうなのか、ということを調べるプロジェクトです。地球温暖化というのは、日本だけで起こることではなく世界で起こることです。その影響は大きかったり小さかったり、いずれにしても日本だけで調べるということはあまり意味が無く、地球規模でリスクを検討します。
 具体的には、100年後に何℃温度が上がるのかとか、北極の海に浮かんでいる氷は、温暖化が進むといつ、どのぐらい融けてしまうのかとか、予測結果を踏まえ、どの程度で温暖化を抑え、どの程度適応していくべきか、さらには新しい対策の可能性を評価することなども検討範囲です。

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[地球温暖化研究プログラム概要]
提供:国立研究開発法人国立環境研究所地球環境研究センター

 最後に、プロジェクト3『低炭素社会に向けたビジョン・シナリオ構築と対策評価に関する統合研究』は、プロジェクト1、2を踏まえた上で、どのような社会を作っていけば良いのか、というものです。

 センターで研究している研究者は、地球温暖化はもう起きているし、これからもだんだんと起きてくると認識しています。ですから、その影響を最小限に抑える社会に到達しないと長続き出来ないと思っています。それはどんな社会かというと、主な温室効果ガスである二酸化炭素、つまり炭素をあまり大気に出さない『低炭素社会』です。もっと簡単に言えば、地球温暖化と賢く付き合う社会にするにはどうしたら良いのか、という研究です。対策を複合的に組み合わせて社会を作っていかなければなりませんが、どのタイミングで、どう組み合わせたらいいか、ということはまだ分かっていません。これは一人の頭では考えられないので、色々な知識を総合化した『モデル』と呼ばれるもので、様々なケースを予想して、評価します。

 地球温暖化研究プログラムが他のプログラムより規模が大きくなっている理由でもあるのですが、これだけ複雑なことが相互に絡み合って起きる現象では、『将来、これが起きますよ』と言い切れることは通常ありえません。現象が単純で、皆が全く踏み外さずに同じことをしたらどうなるのかはある程度正確に予測できますが、現象が複雑で、予測出来ない動きをするものがたくさん相互に依存している社会で、将来を予測することはかなり難しいと言えます。
 しかし、難しい中でも一定の仮定をおいて、より信頼性や再現性が高いモデルを開発することを目的としています」。

このプログラムを通じて、最終的に出てくるのは、プロジェクト3の「地球温暖化と賢く付き合う社会とは?」ということだと思いますが、ある政策にこのプロジェクト3をはじめとする地球温暖化研究プログラムの結果を使う、というようなことはあるのでしょうか?

 「研究所として目標にしていることと、環境省が政府の行政機関としてやることの間にはワンクッションあり、少し違います。
 もちろん、研究をやっている過程で、『次の政府目標は、このぐらいにするのが妥当ではないか』というような意見や知識が出てくることはありますし、研究結果がそのまま政策になる可能性もゼロではありませんが、政府の温暖化政策と研究というのは1対1に繋がっているものではありません。
 この研究プロジェクトの結果が出たから、政府がそれを使って何かを動かすということではなく、知識のまとまりとして、プロジェクトでこのようなことが分かりましたということを示すのが研究所の第1次的な仕事です。
 科学を使って導かれた事実や予測を、どう制度・ルールにするのかというのは、次の、具体的に言うと、環境省がその知識の使い方を判断して、場合によっては国民の代表者たる政治家が決める法律や制度にどのように入れるかということを考える訳です。

 これまで温暖化について一生懸命勉強した研究者、科学者たちの出した現時点での結論は、人間が温暖化に寄与したらしいことは間違いなく、このまま行くとかなり温暖化が進み、今までに経験したことのないような気候変化だけでなく、それに付随して色々なことが起きる可能性があり、これを回避するためには、まず人がその原因となっている温室効果ガスを減らしていかなければならないだろう、ということが基本になっています。
 地球温暖化は人類全ての大問題なので、はっきりと分からないことも、一生懸命に勉強して分かるようにしていきますし、分かったことは少し難しいことでも工夫して、専門家でなくても分かるようにしながら、どんどん世の中に発信しているのが、地球環境研究センターです」。

地球環境研究センターでは、北海道でも研究活動をされていますよね。

 「北海道をフィールドとする研究の多くが、『まず現状を知る、事実を掴むという研究』、いわゆるモニタリング調査であり、この中でいうとプロジェクト1の関係に近いものです。
 現状を知ることは研究の基本なのですが、モニタリングデータを使って研究をより正確に出来るようにすることと、もっと正確なデータをより効率よく採るためにはどのようにしたら良いかという、新しい知識としての研究でもあります。

 北海道は、地球規模の研究をするのに、非常に適した環境です。温室効果ガスの測定をする時に、例えば、東京で大気を測っても、それは東京が出した温室効果ガスなのか、地球にくまなく広がる温室効果ガスなのか、その区別がつきません。場合によっては、ほとんど東京の影響を受けてしまっていることもあります。
 そのため、地球規模の温暖化のような現象、特に二酸化炭素の観測については、おおきな人間活動が近くにない場所で観測をする必要があります。そのような場所のひとつが、北海道です」。

[後編]では、北海道で行われているモニタリングについて、具体的な内容をお聞きします。お楽しみに!

[書籍の紹介]
『地球温暖化の事典』
book.jpg国立環境研究所地球環境研究センター編著による、重要かつ信頼のおける最新の研究成果や情報をまとめた中項目事典。地球温暖化問題に関する用語の意味や、日本や世界の状況、将来の影響などの基本的な概念について知りたいとき、いつでもひも解いて理解を深めることができ、初学者の通読書としてもおすすめ。
丸善出版  ISBN 978-4-621-08660-5  本体4,800円+税

[こちらもオススメ!]
「インタビュー『地球温暖化の事典』に書けなかったこと」 HPはこちら
http://www.cger.nies.go.jp/cgernews/jiten/

[インタビュアー] 
 公益財団法人北海道環境財団
[インタビュー協力] 
 国立研究開発法人国立環境研究所地球環境研究センター 交流推進担当 
  広兼 克憲(ひろかね かつのり)さん

1965年、東京生まれ。大学・大学院では土木工学を専攻。1991年に環境庁入庁、地球サミットの国際交渉、環境アセスメント、自動車排ガス規制、農薬審査等を担当、1999年より国立環境研究所勤務。現在は地球環境研究センターで研究の広報や解説を担当。

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